福井県嶺北地方の黒龍についての伝説や言伝え また、 毛矢黒龍神社に関する言伝えなど

2008年2月19日火曜日

青い竜  竜典長者  りゅうでんちょうじゃ

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越前平野にいた青と黒の2匹の竜のうち、青い竜の話
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ずっとむかし、越前地方は一面湖水でしたと。
そのうち上の湖には青い竜が住み、下の湖には黒い竜が住んでいましたと。
下の湖は、おおとの王子がみずから切り落として、そこに住んでいた黒い竜を、黒竜大明神としてまつられたことは、前に話しました。

上の湖の切り落としは、家来の物部佐昌(もののべのすけまさ)公に命じられました。
けれども、なかなかの難事業で、どうしようかと思案していました。

するとある日、若い女が来て、
「わたしは身分のいやしい者ですけど、このお仕事の手伝いをさせてください」 といいました。
公は、 「それでは、ためしに二、三日働いてみい」 といって、使ってみました。

女は、とてもよく働くので、手伝い女としてやとうことにしました。
この女は、毎日働いても、すこしもつかれた色を見せません。
それにこの女は、世の常でない美しさを持っていました。
それでいつのまにか、佐昌公はこの女を愛し、おそばめとしました。

まもなく、女は子どもを身ごもりました。するとある夜、女は、佐昌公にいいました。
「いままでかくしていて、申しわけありませんが、わたくしは人間の女ではありません。
上の湖の主です。この湖には、千年を経た竜が何びきも住んでいます。
いまこの湖を切り落とすと、竜の住むところがなくなってしまいます。
あなたは情けのある人ときいております。
それであなたにお仕えしてお願いすれば、湖を切り落とすことを思いとどまっていただけると考えて、人間の女に姿をかえたのです。
わたしをかわいそうとお思いなら、どうか湖を切り落とすことをやめてください」
女はなみだを流してたのみます。

けれども佐昌公は、 「この仕事は、天皇の命令やでな、わたしのはからいで、やめるわけにはいかないのや。かわいそうやけど、ぜひもない」 といって、いっしょになみだをこぼして、なげかれました。

「それでも、少しばかりは住みかを残してやろう」 と考えて、湖の岸を見回りました。
すると湖の西岸によい江があるので、女に、
「ここは狭い江やけど、深いふちになっているから、がまんして、ここに住んでくれ」 といいました。
竜神は、喜んで、一族とともにこの江にはいりました。それが現在の丹生郡宮崎村江波(えなみ)のふちです。

女は、竜神なので江にはいりましたが、女が佐昌公に仕えて産んだ子どもは、人間なので、水の中へはいれません。仕方がないので、子どもを絹に包んで、江のそばに置き、子どもが泣くと、水から上がって、人間の女になって、子どもに乳をふくませ、自分も悲しくて泣いていました。

江波の里に竜典(りゅうでん)という名の人がいました。女の泣き声を聞いて、ふしぎに思って近づいて来ました。そして、
「おまえは、どうしてこんなところで泣いているのや」 とたずねました。女は、
「わたしは、この江に住む竜神です。けれどもこの子は人間の子なので、水のなかえはいって、わたしといっしょに暮らすことはできません。どうかこの子をもらい受けて、育ててください。
そのご恩返しに、この絹をあげます。この絹は一ぴき(布の長さ、ニ反)ありますが、使うときは二尺(六十センチ)だけ残しておきなさい。すると一夜のうちに、もとの一ぴきになります」 といいました。竜典はあわれに思い、
「それなら、わたしが育ててあげる」 といって、子どもと絹とをもらい受けました。
その後竜典は、その絹をニ尺残しては売り、ニ尺残しては売って、しだいに長者(金持ち)になりましたと。


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